
買い手がAIへの相談に「費用も知りたい」と一言添えるだけで、回答の中身は別物になる。条件の付け方を変えて3AI・54試行を比較した実測では、費用を条件にした質問で、3AIのうち2つのAIの回答から実績の記述が0件になった。代わりに最も多くなったのは価格・契約条件の記述である。本記事はこの結果を件数で示したうえで、この観測から「サイトに価格を載せれば選ばれる」とまでは言えない理由もあわせて書く。
何を測ったか
2026年8月11日、人材教育・組織開発の領域で実施した条件別推薦実験である。従業員100名規模の企業が管理職研修の依頼先を探す、という一般的な相談文を土台に、条件の付け方だけを6種類(無条件・実績×規模・費用・地域・体制・手法)に差し替え、ChatGPT・Claude・Geminiへそれぞれ3回ずつ、計54試行を投入した。特定の企業を測るための設計ではなく、回答に登場した全社を記録している。
回答本文は記述ブロックに分解し、5つの記述型(実績・契約条件・手法・体制・特徴のみ)で判定した。判定除外3件を控除した555ブロックが集計の母数である。各条件×AIの試行数は3のため、本記事では率を使わず、すべて件数で示す。
費用条件の相談文で付け替えた一文は、次のようなものである。
できるだけ費用を抑えたいので、料金の目安もあわせて知りたい。
費用を条件にすると、実績の記述が3AI中2AIでゼロになった
記述型の中で最も動きが大きかったのは「実績」である。無条件の質問でも実績の記述は多くないが、実績や規模を条件にすると3AIとも大きく増える。ところが費用を条件にすると、ChatGPTとGeminiでは実績の記述が0件になり、価格・契約条件の記述が最も多い型になった。
AI | 無条件:実績 | 実績×規模:実績 | 費用:実績 | 費用:契約条件 |
ChatGPT | 4 | 19 | 0 | 26 |
Claude | 2 | 14 | 8 | 4 |
Gemini | 3 | 7 | 0 | 19 |
単位=記述ブロック件数。各セルn=3試行のため件数表記。母数555ブロック。条件別推薦実験(2026年8月11日実施)、判定基準v2.1。
ゼロと書けるのはChatGPTとGeminiの2つであり、3AIすべてではない。Claudeは費用条件でも実績の記述を8件残した。AIによって挙動が割れるため、この実験の数値は合算せずAI別に示している。
また、無条件の側も4件・3件と少ない。落差が見えるのは実績×規模の19件・7件と並べたときであり、無条件との比較だけなら4件と3件が0件になった、という規模の話である。
見方を変えると、条件の一文は回答の一部を修正するのではなく、回答を構成する記述型の配分そのものを差し替えている。実績を条件にすれば実績が語られ、費用を条件にすれば費用が語られる。当たり前に見えるが、実務ではこの裏返しが効いてくる。費用の質問では、実績を語ってもらう枠が2つのAIでほぼ閉じるということである。
記述だけでなく、名前の挙がる会社も入れ替わった
変わったのは記述の中身だけではない。回答に名前が挙がった会社の顔ぶれを、無条件の質問と突き合わせた。
項目 | 社数 |
無条件で登場した会社 | 9 |
費用条件で登場した会社 | 15 |
両方に登場(共通) | 8 |
費用条件でのみ登場 | 7 |
無条件でのみ登場 | 1 |
単位=登場した企業の種類数。3AI・各条件9試行の合計から集計。
費用条件で登場した15社のうち7社は、無条件の質問には登場しなかった会社である。条件の一文は、同じ候補の語られ方を変えるだけでなく、候補の集合そのものを部分的に入れ替えていた。
価格は、数字で語られる型だった
では、その「契約条件」という枠には、どんな記述が入るのか。ここは条件別ではなく、実験全体をまとめて見る。契約条件の記述は6条件を通じて70件あり、うち58件が金額などの数量を伴っていた。抽象的な言葉だけの記述は8件にとどまる。「手法」や「体制」の型が抽象的な言葉だけでも成立しやすいのと対照的に、価格は数字で語られる型である。
ただし、この70件は6条件すべての合計である。費用条件だけに絞った契約条件の記述は49件あるが、そのうち何件が金額を伴っていたかは集計していない。費用の質問で開いた枠の中身が、実験全体と同じ比で具体的だったかどうかは、このデータからは言えない。
70件・58件・8件は3AI合算の値。この項目のAI別内訳、および条件別内訳は集計していない。
解釈|価格の質問は、価格を数字で語れる会社の土俵になる
以上を並べると、費用条件の質問では次の構造が観測されたことになる。回答の枠が価格・契約条件を語る枠に切り替わり、候補の会社も部分的に入れ替わる。そして価格という型は、実験全体で見れば数字を伴って語られる型である。ここから引ける解釈は、価格の質問においては「AIが金額という材料を持てている会社」が語られやすい構造があるのではないか、というところまでである。
注意したいのは、この観測が回答側だけを見ている点だ。語られた金額がどの会社のどのページに由来するのか、価格を公開していない会社が候補から外れたのか、といった入力側との対応はこの実験では測っていない。「価格をサイトに載せていない会社は、規模の大小にかかわらず費用の質問で言及されなくなる」という主張をよく見かけるが、それを実証と呼ぶには、サイト側の価格表示の有無と回答側の登場の有無を突き合わせた集計が必要であり、本実験のデータには存在しない。
実務への示唆|価格ページを作る前に、価格の質問での自社の見え方を測る
この観測を実務に翻訳するなら、順序は「施策」ではなく「測定」からになる。
費用を条件にした相談文で、自社が言及されるかを複数AIで確認する。無条件の質問で出ていても、費用条件では顔ぶれが入れ替わる。
言及されている場合、金額を伴って語られているか、その金額が現行の価格と合っているかを確認する。価格は数字で語られる型であり、古い金額や第三者経由の金額が語られる可能性がある。
そのうえで、価格情報をどこまで公開するかは価格戦略の問題として判断する。商談で個別に見積もる商材か、定価で売る商材かで答えは変わる。AI検索対策だけを理由に決めることは、この実験の結果からは正当化できない。
「価格を載せればAIに出る」という順方向の因果は、この実験を含め、施策前後の比較で検証された公開事例を筆者は確認できていない。測ってから決める、の順序を崩さないことが現時点で最も確度の高い動き方である。
この調査でわかっていないこと
この実験は回答側の観測であり、次の点は検証していない。
第一に、サイト側との対応。価格を表示しているサイトの会社が語られ、表示していない会社が外れた、という入力と出力の突き合わせは行っていない。したがって因果は主張できず、よく語られる会社だから価格情報が広く流通している、という逆向きの説明も排除できない。
第二に、AIの取得方式。JavaScriptで動的に表示される価格をAIが読めるのかどうかは、実測でも、確認済みの公式文書でも根拠を持たない。この論点は未検証として扱うべきで、静的表示でなければ読まれない、と断定する根拠を筆者は持っていない。
第三に、記述の具体性の条件別内訳。契約条件70件中58件が数量を伴うという値は6条件・3AIの合算であり、費用条件に絞った内訳も、AI別の内訳も集計していない。
第四に、範囲の制約。本実験は人材教育・組織開発の1領域・1時点・各セル3試行であり、率や推定値としては扱えない。他業界で同一設計の実験は本記事の根拠に含めていない。判定基準はv2.1であり、本記事の「契約条件」は金額を中心とした記述(v2.1の「価格」型)を指す。後続版で拡張された納期・支払条件などは含まない。
調査概要
項目 | 内容 |
調査名 | 条件別推薦実験(人材教育・組織開発) |
実施日 | 2026年8月11日 |
設計 | 条件語6種 × 3AI(ChatGPT・Claude・Gemini) × 各3回 = 54試行 |
母数 | 555記述ブロック(判定除外3件を控除) |
各セルの試行数 | n=3(率表示は行わず件数表記) |
判定基準 | v2.1(「契約条件」はv2.2で「価格」から改称。本記事は金額中心の記述を対象) |
対象企業 | 事前指定なし。回答に登場した全社を記録 |

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
まずは、現状を整理するところから。
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