
自社の名前を出してAIに聞けば、自社の話が返ってくる。人材教育・組織開発の1社では、社名を含む質問18回答のうち17回答で自社が言及された。同じ会社について社名を含めずに聞くと、48回答のうち言及は3回答である。指名質問の言及率は「聞けば出る」ことの確認にすぎず、買い手の相談で自社が挙がるかという露出の測定には使えない。
「AIに聞いたら自社が出てきた」には、どう聞いたかが抜けている
AI検索対策の効果を確かめようとして、AIに自社のことを聞いてみる。出てきたら安心し、出てこなかったら焦る。この確認方法には、決定的な情報が抜けている。質問文に自社の名前が入っていたかどうかである。
「◯◯社の研修サービスの評判を教えて」と聞けば、◯◯社の話が返ってくる。AIは聞かれたことに答えるからである。この回答に自社が「出てきた」ことは、買い手が業者を探す場面で自社が候補に挙がることを何も保証しない。買い手は自社の名前を知らないからこそ、名前を出さずに相談する。
私たちは2つのクライアント個社調査で、社名を含む質問(指名)と含まない質問(無指名)を分けて実行した。結果は、この2つが別の測定であることをはっきり示した。
なお、この使い分けは調査会社のレポートを読むときにも効く。「AIでの言及率◯◯%」という数字は、分母にどんな質問文が入っているかで意味がまったく変わる。分母の開示がない言及率は、高くても低くても解釈のしようがない。
指名すればほぼ出る。無指名では、ほとんど出ないことがある
表1 人材教育・組織開発の1社|質問型別の自社言及
質問型 | 回答数 | 自社が言及された回答数 |
指名(named) | 18 | 17 |
無指名(recall) | 48 | 3 |
マルチターン | 6 | 0 |
合計 | 72 | 20 |
人材教育個社調査(2026年7月21日)。3AI。各セルn=1のため、段階別の値は件数のまま扱い、率には換算しない。マルチターンは複数ターンの会話形式の相談。指名18回答の内訳は、指名段階9回答中9件、離反防止9回答中8件である。
表2 印刷ECの1社|質問型別の自社言及
質問型 | 回答数 | 自社が言及された回答数 |
指名(named) | 12 | 12 |
無指名(recall) | 45 | 26 |
離反防止(retention) | 9 | 9 |
マルチターン | 6 | 3 |
合計 | 72 | 50 |
印刷EC個社調査(2026年7月22日)。3AI。各セルn=1。マルチターンは複数ターンの会話形式の相談。離反防止は自社の利用継続を前提とする相談のため、無指名の想起とは性質が異なる。この調査では離反防止が独立した質問型であり、表1の調査(離反防止が指名型に含まれる)とは型の構成が異なる。
人材教育の1社では、指名なら18回答中17回答、無指名なら48回答中3回答だった。同じ会社を、同じ複数のAIで、同じ時期に測っている。違うのは質問文に社名が入っているかどうかだけである。
印刷ECの1社では、無指名でも45回答中26回答で言及されており、指名との差は人材教育ほど極端ではない。つまり無指名での言及のされやすさは会社や業界によって大きく違う。一方、指名の言及はどちらの調査でもほぼ満票である。ここが問題の核心で、この2社ではいずれも指名がほぼ満票であり、指名質問は差を写し出す測定として機能していなかった。満票に近い指標は、会社間の違いも、対策の前後の違いも、写し出せない。
段階を分けると、無指名の中でも景色が違う
無指名の質問を買い手の検討段階で分けると、差はさらにはっきりする。人材教育の1社では、課題認識段階の27回答で言及は0件、比較検討段階の18回答で3件だった。印刷ECの1社では、課題認識段階の21回答で7件、比較検討段階の15回答で13件である。
指名質問だけを見ていたら、この構造は一切見えない。どの段階で聞いても、名前を出せば名前が返ってくるからである。自社がどの検討段階から候補に入り始めるのかは、無指名でしか測れない。
指名質問の言及率が高いのには、もう1つ理由がある
ここで、私たち自身の設計の問題を開示しておく。この2つの調査の指名質問は、いずれもシナリオを対象企業の事例コンテンツを読み込んだ後に設計している。このうち印刷EC調査では、相談文に含めた数値が、引用された事例ページの記述と一致していた例が実際に確認された。人材教育調査では数値一致の実例までは確認されていないが、設計の順序が同じである以上、同種の過適合の可能性がある。
つまり質問文が、対象企業のコンテンツに寄せて作られていた可能性がある。これは指名質問の言及数をさらに押し上げる方向に働く。聞けば出るという構造に加えて、質問そのものが答えに寄って作られていたかもしれない。二重の意味で、この数値は露出の指標にならない。
調査対象のコンテンツを読んでから質問を作ると、その質問はコンテンツに引き寄せられる。無指名の質問は、対象企業を決める前に設計するのが原則である。この失敗の詳細は、調査の再現性を扱う別の記事で書く。
指名質問にも、正しい使い道はある
指名質問が無意味なわけではない。用途が違うだけである。
指名質問で測れるのは、AIが自社について語る内容の正確性である。古い価格が語られていないか、終了したサービスが現行のものとして説明されていないか、事実と違う実績が付いていないか。名前を出して聞けば、AIが自社に紐づけて保持している情報を点検できる。
この用途では、指名の言及がほぼ満票であることはむしろ好都合である。確実に自社の話をさせられるので、その中身を検査できる。露出の指標としては役に立たない性質が、事実確認の道具としては利点になる。
使い分けはこうなる。露出を測るなら無指名。語られる中身を点検するなら指名。この2つを混ぜて「AIに聞いたら出てきた」とまとめた瞬間に、どちらの測定でもなくなる。
自社で測るときの確認点
第一に、測定の質問文に自社名が入っていないかを確認する。入っていたら、その結果は露出ではなく事実確認の測定である。
第二に、外部のツールやレポートの「言及率」を見るときは、分母の質問文を確認する。指名質問が混ざった言及率は、混ざった分だけ高く出る。
第三に、質問文をいつ設計したかを確認する。自社サイトや事例を読み込んだ後に作った質問は、自社に寄っている可能性がある。
第四に、無指名の測定は検討段階を分けて見る。全段階を合計した言及数は、どの段階で挙がっているのかを隠す。
この調査でわかっていないこと
各セルn=1である。2つの調査はいずれも1シナリオ1回答で、同じ質問を繰り返したときのぶれを測っていない。段階別の値はとくに、1件の増減で様相が変わる規模である。率に換算していないのはこのためである。
対象は2社である。無指名での言及のされやすさが会社・業界で大きく違うことは2社の対比から見えるが、その差が何によるものかは特定できない。業界の違い、コンテンツの量、知名度など、候補となる要因は測っていない。
指名質問の過適合の影響量は分離できない。「聞けば出る」効果と「質問が対象企業のコンテンツに寄って作られた」効果のどちらがどれだけ言及数を押し上げたかは、この設計では切り分けられない。数値一致の実例が確認されたのは印刷EC調査のみで、人材教育調査は設計順序からの推定である。
推薦の中身は扱っていない。本稿の数値は言及の有無であり、言及された回答で何が語られたかは別の観測である。名前が挙がることと内容が語られることは別の事象であり、後者は本稿の範囲外である。
2026年7月時点の測定である。モデルの更新によって結果は変わりうる。
調査概要
表3 本稿で用いた調査
調査 | 実施日 | 設計 | 単位 | 各セルn |
人材教育個社調査 | 2026-07-21 | クラスタ×段階×質問型/3AI/自社1社の言及を判定 | 72回答 | 1 |
印刷EC個社調査 | 2026-07-22 | クラスタ×段階×質問型/3AI/自社1社の言及を判定 | 72回答 | 1 |
2つの調査は同一の設計思想によるが、対象企業・業界・質問型の内訳構成が異なるため、表は調査別に分けて示した。
クライアント関与の開示:2つの調査はいずれも、筆者が支援するクライアント企業の個社診断である。対象企業はいずれも匿名とし、業界名(人材教育・組織開発/印刷EC)のみを記載した。指名質問のシナリオは対象企業の事例コンテンツを読み込んだ後に設計されており、本文に記載のとおり過適合がある。
判定基準の版と対象範囲:本稿が扱うのは、自社1社が回答に言及されたかどうかの1点のみである。5記述型の判定基準(v2.1/v2.2)は本稿では用いていない。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
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