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AI検索石村浩延

AI検索対策(LLMO/GEO)の予算を通すために、社内で示すべき数字|LLMOの稟議で使える実測と、使えない予測

市場規模やAI利用率の予測では稟議は通らない。示せるのは自社の実測だけである。ある診断では、比較検討段階で競合が18回答中14件挙がる一方、自社は3件だった。示せる数字と示せない数字を分けて、提案を組み立てる。

「AI検索が来ます」では稟議は通らない。市場規模やAI利用率の予測を並べても、経営が知りたいのは自社の話だからである。示せるのは1つ、買い手が業者を探す相談をしたときに自社が挙がるかどうかの実測である。本稿は、その測り方と、示せない数字を示せないと書いたまま予算を通すための組み立てを扱う。

市場の話をしている限り、稟議は自分ごとにならない

AI検索対策の提案でよく使われるのが、生成AIの利用者数の伸びや、検索行動が変わるという予測である。だが、これらは提案を受ける側にとって「そうかもしれない」で終わる。市場が変わることと、自社の売上が減ることの間には距離がある。

経営が判断に必要とするのは、自社にいま何が起きているかである。買い手が生成AIに相談したとき、自社は候補に挙がっているのか。競合は挙がっているのか。挙がったとして、何を語られているのか。これらは測れば分かる。

そして、この数字は外部から買えない。自社について、自社が測るしかない。だからこそ、稟議で示す価値がある。

もう1つ、経営に伝わりやすい点がある。この測定は、競合の状態も同時に見えることである。自社が挙がらず競合が挙がっているなら、それは市場の未来の話ではなく、現在進行形の差である。逆に、競合も挙がっていないなら、まだ誰も取っていない領域だという説明ができる。どちらであっても、判断材料としては市場予測より具体的である。

示せる数字と、示せない数字を分ける

提案書を作る前に、この2つを分けておく。混ぜると、示せない数字の弱さが示せる数字まで巻き込む。

表1 稟議で示せるもの・示せないもの

項目

扱い

理由

自社が挙がった回数

示せる

買い手の相談文を設計して実行すれば測れる

競合が挙がった回数

示せる

同じ測定で同時に取れる

自社について語られた内容

示せる

回答を読んで分類すれば取れる

条件を変えたときの差

示せる

条件語だけを差し替えて測れる

AI経由の流入予測

示せない

登場と流入の対応を測ったデータがない

施策のROI

示せない

施策の効果を前後比較で検証した事例を確認できていない

市場規模・AI利用率

示せない

自社で測れず、外部データの精度も検証できない

この整理は、私たちが自社の測定で扱える範囲に基づく。外部データを引用しないという方針の結果でもある。なお「競合が挙がった回数」は、事前に定義した競合リストとの照合になるため、リストの作り方に結果が依存する。

示せない欄を空欄にせず、示せないと書く。これは誠実さの表明である以上に、実務上の効果がある。後から「予測と違うではないか」と問われる余地を最初に消せる。

示すべきは、自社の不在である

測定の設計は単純である。買い手が業者を探すときの相談文をいくつか作り、社名を含めずに、複数のAIで、複数回実行する。そして自社と競合が挙がった回数を数える。

社名を含めてはいけない。「弊社の評判は」と聞けば弊社の話が返ってくるが、それは買い手の相談ではない。私たちが行ったある企業の診断では、社名を含む質問では18回答中17回答で自社が言及されたのに、社名を含めない質問では48回答中3回答だった。同じ会社、同じAI、同じ時期の測定である。

この差こそが稟議の材料になる。「指名されれば出る。指名されなければ出ない」という状態は、認知のある既存顧客には届くが、新規の買い手には届いていないことを意味する。

段階を分けるとさらに具体的になる。同じ診断では、課題認識の段階の27回答で自社の言及は0件だった。経営に示すべきは、この0という数字である。市場の予測ではなく、自社がいま候補に入っていないという観測である。

競合と並べると、さらに具体になる。同じ診断で、事前に定義した競合11社のいずれかが検出された回答は、課題認識段階で27回答中2件、比較検討段階で18回答中14件だった。同じ段階の自社は0件と3件である。比較検討という、買い手が候補を絞り込んでいる段階で、競合は14件挙がり、自社は3件だった。

この対比は稟議で説明しやすい。市場がどうなるかという話ではなく、いま買い手が比較している場面で自社が候補に入りきれていない、という現在の状態だからである。ただし、この競合検出は事前に作ったリストとの照合であり、リストに載せなかった企業が回答に出ても数えられない。競合リストの作り方が結果を左右する点は、測定の前に社内で合意しておく必要がある。

効果測定の設計を、先に約束する

予算を求めるとき、最も強い約束は「効果を測る方法を先に決めておくこと」である。

この領域では、施策の効果を前後比較と対照群で検証した公開事例を確認できていない。だから「これをやれば何%改善します」とは言えない。代わりに言えるのは、「いまの状態をこう測りました。施策の後に同じ方法で測り直し、変化を報告します」である。

この約束には副次的な効果もある。測定方法を先に固定すれば、後から都合のよい指標に乗り換えることができなくなる。提案する側の自己規律にもなり、経営から見れば検証可能な提案になる。

測定にかかるコストは、施策そのものより小さいことが多い。まず測定だけを承認してもらい、結果を見てから施策の予算を議論する、という二段階の提案も現実的である。

測定の頻度も先に決めておく。AIのモデルは更新されるため、1回の測定は1時点の記録にしかならない。四半期ごとなど、間隔を決めて繰り返す前提で設計すると、施策の効果とモデル更新の影響を切り分ける材料にもなる。ただし完全な切り分けには、施策を打たない対照が必要である。

もう1つ、提案の前に確かめておくとよいことがある。測定の結果が悪かった場合にどうするかを、提案する側が先に決めておくことである。「挙がりませんでした」という報告だけで終われば、次の予算は出ない。挙がらなかったときに何を試すのかまで含めて提案すれば、結果がどちらでも次の一手がある状態になる。

反対されやすい3つの論点への備え

表2 想定される反対と、答え方

反対

避けたい答え方

実測に基づく答え方

まだAIで探す買い手は少ない

利用率のデータを持ち出す(自社では検証できない)

利用率が不明でも自社の不在は測れる。いま測っておけば、増えたときに比較できる

SEOをやっていれば十分では

SEOは古いと言う

土台は共通している。ただし順位に相当する指標がなく、条件で候補が入れ替わるため、順位の記録では捉えられない

効果が証明されていないなら投資できない

効果があると断定する

そのとおりなので、まず測定に投資する提案にする。施策より金額規模が小さい

この表は提案の組み立て方の整理であり、承認率などを測ったものではない。

3つ目への答え方が要点である。効果が証明されていないことを認めたうえで、だから測るのだと言う。断定して通した予算は、結果が出なかったときに次を失う。

1つ目への答え方にも補足がいる。「まだ少ない」という反論に対して、利用率のデータで反論しようとすると、相手も別のデータを持ち出して水掛け論になる。データの信頼性を争うのではなく、測定の位置づけを変えるほうがよい。いま測るのは、利用が増える前に基準点を作っておくためだと説明する。基準点がなければ、増えた後に何が変わったかを言えない。

実務への示唆|提案書に書く順序

第一に、自社の測定結果から始める。市場の話は背景として最小限にとどめる。

第二に、条件を明記する。どのAIで、どんな相談文で、いつ、何回測ったか。条件のない数字は、後から検証できない。

第三に、示せない数字を明示的に書く。流入予測やROIは出せないと先に書いておく。

第四に、再測定の時期と方法を提案に含める。効果測定の設計が提案の一部になっていることが、この領域では最も差がつく。

この4点は、すべて「後から検証できる形にする」という一点に集約される。断定して通した予算は、結果が出なかったときに説明できない。測り方ごと提案しておけば、効果が出なかったという結果も報告として成立する。この領域では、それが次の予算につながる。

この記事でわかっていないこと

稟議の通過率は測っていない。本稿の組み立ては実務経験からの整理であり、この方法で承認率が上がることを検証したものではない。

登場と受注の関係は測っていない。AIの回答に自社が挙がることが、実際の商談や受注につながるかどうかは分かっていない。したがって「挙がらないと機会損失がいくら」という試算はできない。

本稿で引用した数値は、クライアントの個社診断によるものである。各セルn=1で、1回の実行に基づく。相談文は対象企業の事例を読み込んだ後に設計されており、指名質問には過適合がある。無指名の値はこの影響を受けにくいが、完全に排除できているわけではない。

競合の検出は、事前に定義した11社のリストとの照合である。リストに載せなかった企業が回答に出ても数えられないため、実際に登場した企業数はこれより多い可能性がある。

2026年7月時点の測定であり、モデルの更新によって結果は変わりうる。

調査概要

表3 本稿で引用した調査

調査

実施日

本稿での引用箇所

人材教育個社調査

2026-07-21

指名18回答中17件/無指名48回答中3件/課題認識27回答中0件・競合検出2件/比較検討18回答中3件・競合検出14件

クラスタ×段階×質問型/3AI/72回答/各セルn=1。クライアント企業の個社診断であり、対象企業は匿名とし業界名のみを記載した。

判定基準の版と対象範囲:本稿が扱うのは、自社1社が回答に言及されたかどうかの1点のみである。5記述型の判定基準(v2.1/v2.2)は用いていない。

石村浩延

Written by

石村浩延

マーケティング・ファシリテーター

株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。

まずは、現状を整理するところから。

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