
結論から書くと、「何本書けばいいか」に答えられるデータを私たちは持っていない。測ったのはAIが出力した回答の側であって、企業のコンテンツと回答の対応は測っていないからである。代わりに言えるのは、買い手の相談が条件によって分岐し、条件ごとに挙がる会社も語られる内容も変わるという観測である。網羅すべき対象が、記事のテーマではなく買い手の条件のほうにある可能性を示唆する。
「何本書けばいいか」という問いが出てくる背景
コンテンツの本数は、SEOの文脈では意味のある問いだった。検索されるキーワードの数が有限であり、キーワードごとに記事を用意するという設計が成り立っていたからである。網羅すべき範囲が数えられるなら、必要な本数も見積もれる。
AI検索でも同じ問いが立てられている。だが、この問いに答えるには「何を網羅すれば足りるのか」が決まっている必要がある。そこが決まっていない状態で本数を示すのは、根拠のない目標を置くことになる。
本数を問う声が出る背景には、もう1つ事情がある。AI検索対策として何をすればよいかが定まらないなかで、本数だけは意思決定できるからである。目標を数字で置けば進捗を管理でき、予算も立てられる。だが管理しやすさと、効果があることは別である。
私たちが測ったのは、回答の側であってコンテンツの側ではない
ここで、私たちの実測の範囲を正確に書いておく。誤解されやすい部分である。
私たちはAIの回答を読み、企業に触れた記述を1件ずつ切り出して分類してきた。実績・契約条件・手法・体制・特徴のみの5つの型である。人材教育・組織開発で555件、会計SaaSで767件を分類した。
この「記述単位で分類する」というのは、AIの回答を分析するための私たちの方法である。AIがウェブ上の記事を記述単位で拾っている、という観測ではない。ここを混同すると、「AIは記事単位ではなく記述単位で読むから、記事を細かく分けるべきだ」という結論が出てくるが、私たちのデータはその主張を支持しない。
企業のコンテンツと回答の対応も測っていない。AIが数量を伴う実績を語ったとき、その数字がどこから来たのかを記録していない。企業サイトなのか、第三者メディアなのか、別の経路なのかは特定できない。
つまり、コンテンツをどう作れば回答がどう変わるかについて、私たちは何も測っていない。本数の話ができないのはこのためである。
それでも言えるのは、買い手の相談が条件で分岐すること
コンテンツ側の話はできないが、買い手の側については測っている。
相談文の条件語だけを差し替えて実行すると、挙がる会社の顔ぶれが動いた。地域の条件を足した場合、登場した21社のうち無条件のときと共通するのは3社だけだった。18社は地域条件でのみ現れている。
語られる内容も動く。費用の条件を足したときの実績の記述は、あるAIで0件、別のAIで8件、もう1つで0件だった。同じ条件でもAIによって結果が逆になる。
さらに、相談の段階によって企業名が出るかどうかが変わる。買い手の相談が業者を探す形になるまで、3つのAIとも業者名を挙げなかった。前半3段階の27回答すべてで0件である。
網羅の対象が変わるかもしれない、という仮説
ここからは仮説である。実測ではない。
買い手の相談が条件で分岐するなら、網羅すべき単位はキーワードではなく、買い手が付ける条件のほうかもしれない。費用を気にする買い手、地域を気にする買い手、体制を気にする買い手。それぞれに対して自社が候補に入るかは、別々に測らないと分からない。
この仮説が正しければ、必要なのは本数ではなく、条件ごとの網羅である。だが正しいかどうかは検証していない。条件ごとにコンテンツを用意した企業が、その条件の相談で挙がりやすくなるかを測った設計を、私たちは持っていない。
仮説として書く理由をもう1つ述べておく。条件の数は、キーワードのように数え上げられない。費用と地域を同時に指定する買い手もいれば、規模と体制を組み合わせる買い手もいる。条件が組み合わさるなら、網羅すべき数は掛け算で増える。「条件ごとに用意すればよい」という助言は、実行可能性の面でも検証が要る。
関連する観測として、AIに語られた型の数が多い企業ほど登場回数が多いという段差がある。ただしこれは「よく登場する企業だから型が揃った」という逆向きでも、「規模の大きい企業ほど型も登場も多い」という第三の要因でも、同じ数字になる。しかも型が揃っていながら登場の少ない企業が現にいる。施策の根拠にはできない。
本数を増やす前にできる、既存記事の棚卸し
本数の答えは出せないが、いま手元でできる作業はある。
表1 棚卸しの手順
手順 | やること | 分かること |
1. 相談文を作る | 買い手が業者を探すときの文章を、条件別に数本用意する | 測定の対象が定まる |
2. 測る | 複数のAIで、複数回実行し、自社と競合の登場を記録する | 条件ごとの現在地 |
3. 読む | 自社が挙がった回答で、何が語られたかを分類する | 語られている型と、欠けている型 |
4. 突き合わせる | 語られた内容が、自社サイトのどこに書かれているかを探す | 自社の記述と一致する内容と、出所が特定できない内容の内訳 |
5. 判断する | 欠けている型について、自社に材料があるかを確認する | 書く必要があるのか、既にあるのに使われていないのか |
この手順は、コンテンツと回答の対応を測る設計ではない。手順4での一致は対応関係の証明ではなく、棚卸しの手がかりとして扱う。出所が見つかっても、その記述が引用されたことにはならない。
この作業で分かるのは、本数が足りないのか、内容が足りないのか、それとも既にあるのに拾われていないのかの区別である。本数を増やす判断は、その区別がついてからでよい。
経験上、手順5で「材料はあるが書いていない」に該当することは少なくない。実施した案件の数、対応できる規模、提供できる体制。社内では当然のこととして共有されていて、外向けの文章にはなっていない情報である。この場合、必要なのは新しい記事ではなく、既存の情報を書き出すことになる。ただしこれは私たちの支援経験からの印象であり、頻度を測ったものではない。
実務への示唆|本数を目標にしない
第一に、本数を目標値に設定しない。根拠のある数字を誰も持っていない以上、目標にすれば達成の可否だけが残る。
第二に、条件を軸に棚卸しする。買い手が付けそうな条件を数え、それぞれで自社が挙がるかを測る。テーマの網羅より、条件の網羅のほうが、いまの観測とは整合する。
第三に、既存記事を捨てない。悩み段階の記事にAI経由の推薦を期待するのは構造的に難しいが、検索流入や営業活用といった役割は残る。役割ごとに評価する。
第四に、増やす前に測る。増やした後に測っても、増やしたことの効果なのか、モデルが更新されたのかを分けられない。
この記事でわかっていないこと
コンテンツの本数と、AIの回答での登場の関係は測っていない。本稿の観測はすべて回答側のものであり、企業のコンテンツをどう作ればどうなるかについては、何も言えない。
AIがウェブ上の情報をどの単位で扱っているかも測っていない。私たちが記述単位で分類したのは分析の方法であり、AI側の処理単位を示すものではない。
条件ごとの網羅という仮説は検証していない。条件に対応するコンテンツを用意した企業が、その条件の相談で挙がりやすくなるかを測った設計を持っていない。
引用元の分析も本稿の範囲外である。AIがどのサイトを読み、どれを引用として示したかは別の観測であり、取得方式がAIごとに異なるため横断比較もできない。
本稿で引用した観測は2026年7〜8月時点のもので、人材教育・組織開発と会計SaaSの2領域が中心である。各実験のnは小さく、設計と限界は該当の実測記事に記載している。
調査概要
表2 本稿で引用した調査
調査 | 実施日 | 本稿での引用箇所 |
会話継続実験・距離操作実験 | 2026-07-29 | 前半3段階で27回答すべて業者名0件 |
条件別推薦実験(人材教育・組織開発) | 2026-08-11 | 地域条件で21社中共通3社/費用条件の実績がAIで0件と8件に分かれた/555件の記述型分類/型の数と登場回数の段差 |
会計SaaS編 遡及判定 | 2026-08-11 | 767件の記述型分類 |
各調査の設計・n・限界・クライアント関与は、それぞれを扱った実測記事に記載している。設計が異なるため、調査間で数値を比較してはいけない。5記述型の判定は判定基準v2.1による(「価格」はv2.2で「契約条件」に改称)。
調査対象企業はすべて匿名である。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
まずは、現状を整理するところから。
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