
先に書いておくと、私たちはアクセス解析側の実測データを持っていない。測ってきたのはAIの回答であって、そこから何人がサイトに来たかではない。そのうえで言えるのは、流入は漏斗の最後の断面にすぎず、そこだけを追うと判断を誤るということである。本稿は、計測できる範囲と、できない範囲を分けることに絞る。
私たちが持っているデータと、持っていないデータ
最初に立場を明確にする。この記事には、AI経由の流入数に関する自社の実測が1件もない。
私たちが測ってきたのは、買い手を装った相談をAIに投げ、回答に企業名が挙がるか、何が語られるか、どのサイトが引用として示されたかである。すべて回答の側の観測であり、その回答を読んだ人が実際にリンクをクリックしたかどうかは記録していない。
アクセス解析での参照元の取れ方や、その設定方法についても、本稿では検証していない。手順を解説する記事は他にあるので、そちらを参照してほしい。本稿が扱うのは、取れた数字をどう解釈するかである。
なぜこの立場を先に書くかというと、この領域では「測れます」と言うほうが売りやすいからである。計測の設定を代行し、ダッシュボードを作れば、数字は出る。だが出た数字が何を表しているかは別の問題で、そこを曖昧にしたまま報告すると、判断を誤らせる。
流入は、漏斗の最後の断面にすぎない
AI検索の効果を測るとき、実は複数の別々の測定が「AI経由の数字」と呼ばれている。これらは同じ漏斗の別の断面である。
表1 「AI経由の数字」と呼ばれているものの断面
断面 | 数えているもの | 位置 |
クローラーのアクセス | AIのボットがサイトを読みに来た回数 | 最も手前。読まれたかどうか |
取得 | AIが回答を作る過程で読んだURL | 読んだが、引用に出るとは限らない |
引用 | 回答に引用として示されたURL | 表示された段階 |
流入 | 回答を見た人がリンクをクリックして訪れた数 | 最後。人が動いた段階 |
この整理は断面の位置関係を示すもので、各断面の量的な関係を測ったものではない。
流入は、この4つのうち最後の断面である。手前の3つがすべて起きて、さらに人がクリックして初めて数字になる。
そして私たちの実測では、手前の断面ですでにばらつきがある。引用で数えるか取得で数えるかによって、ドメインの順位が入れ替わった。引用ベースで1位だったサイトが取得ベースでは3位に下がり、取得ベースで1位のサイトは引用ベースでは4位だった。読まれた回数と、引用として表に出た回数は比例していない。
さらに、AIによって取得URLの記録の仕方が違う。あるモデルは読んだURLを完全に記録し、別のモデルは引用と同じものしか返さず、もう1つは読んだURLを記録していない。断面によっては、そもそも観測の窓が開いていない。
流入が見えないことと、影響がないことは別である
ここが本稿の中心である。
流入の数字が小さいとき、2つの可能性がある。実際に影響が小さい場合と、影響はあるが数字として観測されていない場合である。この2つは、流入の数字だけを見ていても区別できない。
後者がありうる理由は、AIの回答の性質にある。生成AIは要約を返す。買い手が要約を読んで納得すれば、リンクをクリックしないことがある。それでも「その会社が候補として挙がった」という事実は起きている。
私たちの実測では、AIが企業について語る内容は5つの型に分かれ、そのうち具体的な内容を伴わない「特徴のみ」が、会計SaaS領域では767件中231件を占めた。残りは実績・契約条件・手法・体制のいずれかに分類された記述である。ただし型が分類されたことと、具体的な内容を伴うことは別で、これらの型でも数量や固有名詞を伴わない記述は少なくない。それでも、買い手が回答の記述だけで判断した場合、クリックは発生しない。
したがって「AI経由の流入が少ないから、AI検索対策は不要」という判断には、根拠が足りない。流入が少ないことは観測できるが、それが影響の小ささを意味するかは別の問題である。
だからといって、流入を無視してよいわけでもない
逆の誤りにも触れておく。「流入では測れないから、測らなくてよい」ではない。
流入は、実際に人が動いたことを直接示す数字である。数字が小さくても、傾向の変化は追う価値がある。とくに、参照元が記録される部分については、時系列で見ておけば、後から比較できる。
重要なのは、その数字を「AI検索での自社の位置」と読み替えないことである。流入は最後の断面であり、手前の断面の状態を反映しているとは限らない。
とくに、流入が増えたときに理由を推測しないことである。回答での登場が増えたのか、同じ登場でクリックされやすくなったのか、そもそもAIの利用者が増えただけなのか。流入の数字だけでは区別できない。手前の断面を測っていれば、この区別に近づける。
間接的な指標にも限界がある
流入が取れないなら間接指標で、という考え方がある。指名検索の増加、直接流入の変化、問い合わせ時のヒアリングなどである。
これらは補助として使えるが、限界を理解しておく必要がある。指名検索の増加は、AI検索以外の要因でも起きる。広告、展示会、口コミ、メディア掲載。どれが効いたかを分離するには、他の施策を止めるか、対照を置くしかない。
私たちは、これらの間接指標とAIでの登場との関係を測っていない。つまり「AIに挙がるようになったから指名検索が増えた」という対応を示せるデータを持っていない。間接指標は、あくまで補助として扱うのが妥当である。
実務への示唆|回答側を測る
第一に、流入の数字とは別に、回答側を測る。買い手が業者を探すときの相談文を作り、複数のAIで複数回実行し、自社が挙がるかと何を語られるかを記録する。これは手元でできる。
第二に、流入の数字を単独で判断材料にしない。少ない場合は「観測できていないだけ」の可能性を併記する。多い場合も、それが自社のどの断面の状態を示すのかは分からない。
第三に、報告では断面を明示する。「AI経由の流入」なのか、「AIの回答での登場」なのか、「AIのクローラーのアクセス」なのか。同じ「AI経由」でも、数えている場所が違えば別の話である。
第四に、いま記録を始める。どの断面であれ、過去の記録がなければ変化は語れない。完全な計測ができるまで待つより、不完全な記録を続けるほうが後で役に立つ。
この記事でわかっていないこと
アクセス解析側の実測を持っていない。AI経由の流入数、参照元の取得率、クリック率などの数値を、私たちは測っていない。本稿に流入の数字が1つも出てこないのはこのためである。
各断面の量的な関係も測っていない。引用された回数と流入数の対応、クローラーのアクセスと引用の対応など、断面をまたいだ関係は検証していない。表1は位置関係の整理であり、量の関係ではない。
参照元の取得に関する技術的な仕様は検証していない。どのAIサービスがどのような条件で参照元を送信するかについて、公式ドキュメントの一次確認を行っていない。本稿ではこの点に踏み込んでいない。
間接指標との関係も測っていない。指名検索や直接流入の変化と、AIでの登場の関係を示すデータを持っていない。
引用軸の観測は、推薦軸の観測とは別のデータである。引用されていないことは、参照されていないことも、推薦されていないことも意味しない。
調査概要
表2 本稿で引用した観測
調査 | 実施日 | 本稿での引用箇所 |
引用軸の集計 | 2026-08-14 | 引用ベースと取得ベースでのドメイン順位の入れ替わり/AIごとの取得URLの記録仕様の違い |
会計SaaS編 遡及判定 | 2026-08-11 | 767件中231件が具体的な内容を伴わない記述 |
いずれもAIの回答を対象とした観測であり、アクセス解析のデータではない。引用軸の数値は推薦軸の数値と同一の表に置いていない。各調査の設計・n・限界は、それぞれを扱った実測記事に記載している。
調査対象企業はすべて匿名である。本稿では特定の計測ツールやサービスを推奨していない。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
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