
AIが企業の実績に触れた記述を数えると、91件のうち73件が数量を伴っていた。契約条件も70件のうち58件である。一方で体制は125件のうち92件、手法は181件のうち117件が、数量も固有名詞も持たない抽象語だけで成立していた。型によって、具体性の伴い方がはっきり違う。
記述を型に分けるだけでなく、具体性の有無でも分解した
AIが企業について語った内容は、実績・契約条件・手法・体制・特徴のみの5つの型に分かれる。ただし型が同じでも、中身の具体性は一様ではない。「年間◯◯社に導入」と「導入実績が豊富」は、どちらも実績の話をしているが、買い手が受け取れる情報量が違う。
そこで、型とは別の軸で具体性を記録した。数量あり(社数・人数・年数・金額・回数などの数値を含む)、固有名詞あり(発注者名や事業固有名などを含む)、抽象語のみ(どちらも含まない)の3値である。数量ありと固有名詞ありは併記できるが、抽象語のみは他と併記しない。
対象は人材教育・組織開発の条件別推薦実験で、3AIに条件語を6種類振った回答である。
実績と契約条件は、大半が数量を伴っていた
表1 記述型別の件数と具体性
記述型 | 件数 | うち数量あり | うち固有名詞あり | うち抽象語のみ |
手法 | 181 | 21 | 43 | 117 |
体制 | 125 | 23 | 10 | 92 |
実績 | 91 | 73 | 6 | 12 |
特徴のみ | 91 | - | - | - |
契約条件 | 70 | 58 | 4 | 8 |
条件別推薦実験(2026年8月11日)。人材教育・組織開発領域。3AI(ChatGPT・Claude・Gemini)×条件語6種。件数は3AIを横断した値で、AI別の内訳は集計上存在しない。各セルn=3のため件数表記とし、率には換算しない。具体性は1件で複数の値を持つ場合がある。特徴のみは定義上、具体性を持たない。型別件数の合計は558で、これは判定除外3件を含む生の値である。実験全体の集計母数は、判定除外を控除した555件としている。
実績は91件のうち73件が数量を伴っていた。導入社数、受講者数、年数といった数字がある記述である。数量も固有名詞もない実績記述は12件にとどまる。
契約条件も同じ傾向で、70件のうち58件が数量を伴っていた。金額や価格帯が入っている記述である。抽象語のみは8件だった。
この2つの型は、数字が入っている状態が標準だと言っていい。AIがこれらの話をするとき、たいてい具体的な数字が一緒に出てくる。
体制と手法は、言葉だけで成立していた
対照的なのが体制と手法である。体制は125件のうち92件、手法は181件のうち117件が抽象語のみだった。数量も固有名詞も伴わない。
「自社に合わせてカスタマイズできる」「研修後のフォローがある」「実践的なワークショップ形式」といった記述は、数字がなくても体制や手法として成立する。型としての要件を満たしてしまう。
つまり、言葉だけで通る型と、数字がないと成立しにくい型がある。自社の強みがどちらの型にあるかで、必要な準備が変わることになる。ただしこの差の一部は、後述するとおり分類の定義そのものに由来する。実測と定義は分けて読む必要がある。
なお、固有名詞ありでは手法が43件と最も多い。プログラム名や独自メソッドの名称がここに入っていると考えられるが、具体的にどの記述が固有名詞を持っていたかは集計上追えない。
「実績豊富」が特徴のみに落ちるのは、分類の定義による
ここで、書き方に注意が必要な点がある。「実績豊富」「業界トップクラス」といった表現は、この分類では実績ではなく特徴のみになる。判定基準が「数量または固有名詞があれば実績、どちらもなければ特徴のみ」と定めているためである。
これは実測結果ではなく、分類の定義からの帰結である。AIがそう判断したことを示すものではないし、「実績豊富と書くとAIに実績として扱われない」という因果を測ったものでもない。定義がそうなっている、というだけの話である。
実測として言えるのは別のことだ。AIが実績として語った記述の大半に、実際に数量が伴っていた。企業の過去の実態に触れるとき、具体的な数字を伴わない語り方はあまりされていない。ただしこれは3AIを横断した傾向であり、AIごとの差は測っていない。
この区別は重要である。分類の定義を実測結果のように書けば、それは自分で決めた基準を自分で確認しているだけになる。
定義に反するように見える記述が12件あった
表1をよく見ると、説明のつかない数字がある。実績91件のうち、抽象語のみが12件ある。数量も固有名詞もないなら特徴のみに落ちるはずなのに、実績として判定されている。
二重計上の副産物ではない。判定基準では数量ありと固有名詞ありを併記できるが、このデータでは4つの型すべてで3つの値の合計が件数とぴったり一致しており、重複は発生していない。実績の12件は、数量も固有名詞も持たない記述として実在する。
考えられる理由はいくつかある。判定基準には「従業員30〜300名規模で導入が進んでいる」のような規模の特定を実績として扱う規定があり、こうした記述が数量にも固有名詞にも計上されていない可能性がある。あるいは単に判定のゆらぎかもしれない。
どちらであるかは、集計シートからは追えない。件数の内訳しか記録されておらず、個々の記述に当たれないためである。矛盾として記録し、原因の特定は次の調査に回す。
実務への示唆|自社の実績表現を点検する
第一に、自社サイトの実績表現に数量が入っているかを確認する。「実績豊富」「多くの企業に導入」といった表現しかない場合、少なくともこの分類では実績として集計されない。数字に置き換えられる箇所がないかを見る。
第二に、価格情報も同じ扱いで点検する。「リーズナブル」「柔軟な価格設定」は、金額が伴わなければ契約条件としては弱い。
第三に、体制や手法の記述は、数字がなくても型としては成立することを踏まえる。ただしそれは、抽象的なままでよいという意味ではない。買い手が比較に使えるかどうかは、また別の問題である。
第四に、サイトに書いてあることと、AIが語ることを別に扱う。本調査が測ったのはAIの出力であり、企業サイトの記述内容ではない。両者の対応関係は測っていないため、サイトを直せばAIの語り方が変わるとは言えない。
この調査でわかっていないこと
因果は検証していない。企業側が記述を変えてから再計測した設計ではないため、「数字を書けば実績として語られる」とは言えない。観測したのは、AIが語った記述の分布だけである。
サイトの記述との対応を測っていない。AIが数量を伴う実績を語ったとき、その数字がどこから来たのかは記録していない。企業サイトなのか第三者メディアなのか、あるいは別の経路なのかは特定できない。
業界は1つである。本稿は人材教育・組織開発の実験だけを扱っている。会計SaaSでは具体性の内訳を取得していないため、同じ傾向があるかどうかは言えない。
実績12件の説明がついていない。前述のとおり、定義上は特徴のみになるはずの記述が実績として判定されている。表1の各値は、この不確かさを含んだものとして読む必要がある。
判定除外3件の帰属が追えない。型別件数の合計558は判定除外を含む生の値であり、除外3件がどの型に計上されているかは特定できない。型別の値はいずれも上限として読む必要がある。
AI別の内訳がない。本稿の型別件数と具体性の内訳は、いずれも3AIを横断した値である。どのAIでどの型に数量が伴っていたかは集計上わからないため、本稿の傾向がすべてのAIで成り立つとは言えない。
nの制約がある。各セルn=3のため率に換算できず、本稿はすべて件数で示した。
調査概要
表2 本稿で用いた調査
調査 | 実施日 | 設計 | 単位 | 各セルn |
条件別推薦実験(人材教育・組織開発) | 2026-08-11 | 条件語6種×3AI×各3回=54試行(+パイロット6) | 555件 | 3 |
ブロック数が本実験54試行のみに由来するか、パイロット6試行を含むかは集計上特定できない。
判定基準の版と対象範囲:5記述型と具体性の判定は判定基準v2.1で行っている。当時の型名は「価格」で、v2.2で「契約条件」に改称されたため本稿では改称後の名称を用いるが、実際に判定されたデータは金額を中心とするものである。具体性の3値の定義、および実績と特徴のみの切り分け規則は、いずれもv2.1の記述による。
調査対象企業はすべて匿名とし、企業名は記載していない。件数は実測値である。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
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