
買い手の相談文に地域の条件を1つ加えると、AIが挙げる会社の顔ぶれがほぼ入れ替わった。登場した21社のうち、条件なしのときと共通するのはわずか3社で、試した5つの条件の中で最も大きな入れ替わりだった。一方で、AIが企業について語る内容には、地域に対応する型がそもそも存在しない。候補に入るかどうかと、候補に入った後に何を語られるかは、別々に動いている。
相談文の条件語だけを差し替え、他はすべて固定した
買い手の相談文には、たいてい何らかの条件が付いている。実績のある会社がいい、費用を抑えたい、近くの会社がいい、といったものだ。この条件語だけを差し替え、他の文面は完全に固定して、AIの回答がどう変わるかを測った。
条件語以外を固定するのは、変化の原因を1つに絞るためである。相談文をまるごと書き替えてしまうと、結果が変わったときに、条件のせいなのか文面のせいなのかがわからなくなる。差し替えたのは条件を表す語だけで、業種も課題も依頼の形も同一である。
用意したのは、条件を何も付けない統制群と、実績×規模・費用・地域・体制・手法の5条件である。地域条件の相談文は「大阪で対応してもらえる研修会社を教えてください」という形で、地域名以外は統制群と同一である。これをChatGPT・Claude・Geminiの3つに各3回ずつ実行した。対象領域は人材教育・組織開発である。
見たのは2つ。1つは、AIが企業について語った内容がどの型に入るか。実績・契約条件・手法・体制・特徴のみの5つに分類する。もう1つは、そもそもどの会社が候補として挙がったかである。前者は「何を語られるか」、後者は「候補に入るか」であり、別の関門にあたる。
5つの記述型の中に、地域に対応する型はない
条件語の多くは、対応する記述型を持っている。実績を条件にすれば実績の記述が増え、費用を条件にすれば契約条件の記述が増え、体制を条件にすれば体制の記述が増える。条件と型が正面から対応している。
地域だけが違う。5つの型のどれも地域に対応していない。「大阪に拠点がある」という記述は、実績でも契約条件でも手法でも体制でもない。つまり地域という条件は、AIが語る内容の型としては受け皿を持たない。
この時点での予想は「地域を足しても大きな変化は起きない」だった。受け皿がないなら、回答はあまり動かないはずである。結果は逆だった。
候補企業の顔ぶれは、5条件の中で最も大きく動いた
表1 条件語ごとに登場した企業の種類数と、無条件時との重なり
条件 | 登場企業の種類数 | 無条件時と共通 | 無条件時のみ | 当該型のみ |
無条件(統制) | 9 | - | - | - |
実績×規模 | 18 | 5 | 4 | 13 |
費用 | 15 | 8 | 1 | 7 |
地域 | 21 | 3 | 6 | 18 |
体制 | 28 | 7 | 2 | 21 |
手法 | 20 | 6 | 3 | 14 |
条件別推薦実験(2026年8月11日)。人材教育・組織開発領域。単位は企業の種類数。各セルn=3のため件数表記とし、率には換算しない。企業種類数はAI別の内訳が集計上存在せず、3AI横断の値である。
地域条件で挙がったのは21社。このうち無条件時と共通するのは3社にとどまり、18社は地域条件でのみ現れた。逆に、無条件時に挙がっていた9社のうち6社は、地域を足した時点で姿を消している。
他の条件と比べると位置がはっきりする。表1のとおり、無条件時との共通が最も少ないのは地域である。他の4条件はいずれも5社以上が共通しており、地域だけが3社にとどまる。登場企業数そのものが最多なのは体制条件だが、入れ替わりの度合いでは地域が最も大きい。
体制条件では28社が挙がり、うち7社は無条件時にも挙がっていた。地域条件では21社が挙がり、そのうち共通は3社しかない。候補の名簿がほぼ別物になっているということである。
消えた側も見ておきたい。無条件の相談では挙がっていた9社のうち、地域を足した後も残ったのは3社だけである。条件が1つ増えたことで、候補として残る会社のほうが少数になった。新しい会社が加わったというより、名簿が組み替えられたと言うほうが実態に近い。
一方で、語られる内容の動き方はAIによって揃わなかった
表2 無条件時と地域条件における記述型の件数(AI別)
AI | 条件 | 実績 | 契約条件 | 手法 | 体制 | 特徴のみ |
ChatGPT | 無条件 | 4 | 3 | 8 | 8 | 2 |
ChatGPT | 地域 | 1 | 6 | 17 | 10 | 1 |
Claude | 無条件 | 2 | 0 | 2 | 1 | 1 |
Claude | 地域 | 6 | 0 | 8 | 3 | 3 |
Gemini | 無条件 | 3 | 2 | 13 | 2 | 8 |
Gemini | 地域 | 4 | 0 | 11 | 11 | 12 |
各セルn=3。3AIの合算値は集計シートに参考値と明記されているため用いない。
動き方に共通の方向はない。ChatGPTでは手法が8件から17件に増える一方、実績は4件から1件に減った。Geminiでは体制が2件から11件へ大きく増えている。Claudeは全体の件数自体が少なく、実績が2件から6件に増えた。
地域という条件は、語られる内容をどの型に寄せるかについては、一貫した働きをしていない。それでいて、候補の名簿は最も大きく入れ替えている。作用している関門が他の条件と違う、というのはこの意味である。
実務への示唆|地域は「何を書くか」ではなく「候補に入るか」の問題
第一に、地域対応を記述の問題として扱わない。自社サイトに対応エリアを書き足すことと、地域条件の相談で候補に挙がることは、この調査の範囲では別の話である。前者は記述型の話であり、地域にはその受け皿がない。
第二に、地域を含む相談文で別途測る。無条件の相談文で自社が挙がっていても、地域を足した瞬間に候補が入れ替わる。無条件時に挙がっていた9社のうち6社が消えている以上、条件なしの測定結果は地域条件での見え方を保証しない。
第三に、これは機会でもある。地域条件でのみ現れた18社は、条件のない相談では候補に入っていなかった会社である。条件が1つ付いた瞬間に、候補集合の入口が別の会社に向かって開いた。無条件の相談で挙がらないことは、どの条件でも挙がらないことを意味しない。
第四に、無条件の測定結果を「自社の実力」と読まない。同じ相談内容でも、条件が1つ付くだけで候補集合は変わる。買い手が実際にどんな条件を付けて相談しているかを想定し、その形の質問で測る必要がある。
ただし、この4点はいずれも「候補に入る」段階の話である。候補に入った後に何を語られるかは、また別の関門になる。地域条件では、候補に入った後の語られ方に一貫した傾向が見られなかった以上、そちらは別に手当てするしかない。
この調査でわかっていないこと
入れ替わった先がどんな企業かは記録していない。集計しているのは企業の種類数と重なりだけであり、規模、拠点、知名度といった属性を持っていない。したがって「全国大手が地域事業者に置き換わった」といった説明は、本調査からは裏づけられない。
地域条件は「大阪」の1種類である。別の地域を指定した場合に同じ規模の入れ替わりが起きるかは測っていない。都市部と地方で挙動が違う可能性も検証していない。
AI別の内訳がない。候補の入れ替わりは3AI横断の値であり、どのAIでどれだけ入れ替わったかは集計上わからない。記述型のほうはAI別に見られるが、候補集合については見られていない。
nの制約がある。各セルn=3、1業界のみである。率に換算できないため、本稿はすべて件数で示した。
因果は検証していない。企業側が何かを実施してから再計測した設計ではないため、「地域情報を整備すれば候補に入る」とは言えない。観測されたのは、条件語が変わると候補集合が変わったという事実だけである。
調査概要
表3 本稿で用いた調査
調査 | 実施日 | 設計 | 単位 | 各セルn |
条件別推薦実験(人材教育・組織開発) | 2026-08-11 | 条件語6種×3AI×各3回=54試行(+パイロット6) | 555ブロック | 3 |
ブロック数が本実験54試行のみに由来するか、パイロット6試行を含むかは集計上特定できない。
判定基準の版と対象範囲:5記述型の判定は判定基準v2.1で行っており、当時の型名は「価格」である。v2.2で「契約条件」に改称されたため本稿では改称後の名称を用いるが、実際に判定されたデータは金額を中心とするものである。集計母数555ブロックは、生データ558行から判定除外3件を控除した値である。
調査対象企業はすべて匿名とし、企業名は一切記載していない。数えたのは登場した企業の種類数であり、件数は実測値である。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
まずは、現状を整理するところから。
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