
買い手が悩みを相談している段階では、AIは業者名を1社も挙げなかった。ChatGPT・Claude・Geminiの3つで測り、前半3段階の27回答すべてで0件である。手段が決まって頼み方を相談している段階でも、まだ出ない。枠が開いたのは、相談が「業者を教えてほしい」という調達の形に変わった瞬間だった。
買い手の相談を4段階に分け、同じ会話を3AIで走らせた
買い手は最初から「業者を教えてほしい」とは聞かない。まず状況を話し、何をすべきかを探り、やり方が決まってから発注先を探す。この流れを4段階に分けて相談文を作った。
第1段階は経営課題の悩み。第2段階は、課題は見えたが手段が未定の相談。第3段階は、手段は決まった状態での頼み方の相談。第4段階が、業者を教えてほしいという調達の依頼である。
この分け方は、買い手が実際にたどる順序に対応させたものである。困りごとを言語化する段階、打ち手を探す段階、進め方を決める段階、発注先を決める段階。売り手から見れば、最初の3つは「まだ商談になっていない」時期であり、コンテンツマーケティングが最も力を入れてきた領域でもある。
これをChatGPT・Claude・Geminiの3つに、それぞれ3回ずつ実行した。1系列4ターンの会話を3系列、3AI、各3回で27会話・108ターンになる。加えて、同じ4つの質問を会話としてつながずに単発で実行した対照群を108回答分用意した。会話の積み上げそのものに効果があるのかを分けて見るためである。両者を合わせた216回答が本稿の観測範囲である。
数えたのは、回答本文に業者名が挙がったかどうかだけである。引用元URLの取得方式はAIごとに異なり横断比較ができないが、回答本文からの判定であればこの制約を受けない。3AIを同じ土俵で比べられるのはこのためである。
前半3段階では、27回答すべてで業者名が出なかった
表1 業者名が挙がった回答数(各ターン27回答)
ターン | 質問の型 | 会話継続 | 単発実行(対照群) | ChatGPT | Claude | Gemini |
1 | 経営課題(悩み) | 0 / 27 | 0 / 27 | 0/9 | 0/9 | 0/9 |
2 | 機能課題(手段が未定) | 0 / 27 | 0 / 27 | 0/9 | 0/9 | 0/9 |
3 | 手段は決まった(頼み方) | 0 / 27 | 0 / 27 | 0/9 | 0/9 | 0/9 |
4 | 調達(業者を教えて) | 26 / 27 | 26 / 27 | 9/9 | 9/9 | 8/9 |
会話継続実験・距離操作実験(2026年7月29日)。3系列×3AI×各3回。両者は会話文脈の有無だけが異なる対照設計で、試行数・AI構成・質問型は同一のため、同じ表に置いている。ターン4のAI別内訳は、集計表にAI別の系列が1つしかなく、会話継続と単発実行のどちらの内訳かが特定できない。したがって一方の条件についての値として読む必要がある。ターン1〜3のAI別は両条件とも0件のため、この制約を受けない。
前半3段階は、3AIとも1件も出さなかった。ChatGPTだけの結果でも、Claudeだけの結果でも、Geminiだけの結果でも0件である。悩みを相談している段階で会社名が出てこないのは、特定のモデルの癖ではない。
注目すべきは第3段階である。ここでは買い手はすでに手段を決めており、それをどう頼めばいいかを相談している。手段が決まっていれば業者名が出てもよさそうだが、出なかった。枠を開くのは手段の確定ではない。
3つのAIが、同じ地点で同時に切り替わった
第4段階で、相談は「業者を教えてほしい」という調達の依頼に変わる。ここで27回答中26回答に業者名が現れた。直前のターンまで0件だったものが、一斉に開いている。
これが3AIすべてで起きたことは、内訳が記録されていない条件についても言える。仮に1つのAIが0件なら、残る2つが満点でも合計は18件にとどまり、実測の26件には届かないからである。どちらの条件でも、3つのAIがそれぞれ8件以上を開いたことになる。
27回答すべてではない点は書いておく。1回答では業者名が挙がらなかった。ゼロではないのと同じく、全部でもない。AI別の内訳を見ると欠けた1件はGeminiに現れているが、前述のとおりこの内訳がどちらの条件のものかは特定できないため、Geminiだけが出しにくいと断定することはできない。
切り替わりが同じ地点で起きたことは、扱い方を1つ決める。買い手の相談が調達の形になるまで、企業が入る枠は開いていない。どのAIを使っているかにかかわらず、である。
これは測定の設計にも効く。AI検索での見え方を確かめるとき、どのAIを使うかより、どの段階の質問文で聞くかのほうが結果を大きく左右する。3AIで揃った以上、モデルの選択でこの構造を迂回することはできない。
会話を積み上げても、枠が開く時期は早まらなかった
会話を続けるうちにAIが文脈を理解し、早めに候補を出してくれるのではないか。この予想は外れた。
4ターンを会話としてつないだ場合と、同じ質問を単発で投げた場合の結果は、4ターンすべてで一致している。前半3段階はどちらも0件、第4段階はどちらも26件だった。
つまり、枠を開くのは会話の蓄積ではなく、その瞬間に何を聞かれたかである。買い手が長く相談してきたからといって、企業名が出やすくなるわけではない。
実務への示唆|悩み段階のコンテンツは、推薦を取りに行く場所ではない
第一に、悩み段階での露出をAI経由の推薦につなげる想定を、施策の前提から外す。枠が開いていない場所では、何を用意しても業者名としては出てこない。この構造は3AI共通なので、モデルを変えても回避できない。
第二に、測る場所を調達の質問に合わせる。自社がAI検索でどう見えているかを確かめるなら、悩みの相談文ではなく「◯◯を頼める会社を教えてほしい」という形の質問で測らないと、枠が開いていない状態を見て「出ない」と判断することになる。
第三に、悩み段階のコンテンツを別の物差しで評価する。本調査が示したのは「AIが業者名を出さない」ことであって、悩み段階のコンテンツに価値がないことではない。検索流入、既存顧客の理解、営業資料としての利用など、AI経由の推薦以外の役割は依然として残る。ただしそれらは本調査では測っていないため、ここで根拠を示すことはできない。
この3点は、いずれも順序の問題に帰着する。悩み段階の露出を増やしてから推薦されるかを見るのではなく、まず調達の質問形で自社が挙がるかを測り、そのうえで足りない材料を特定する。枠が開いた場所で何が起きているかを知らないまま、開いていない場所に投資するのは順序が逆である。
この調査でわかっていないこと
AIが前半3段階で何をしていたかは測っていない。数えたのは回答本文に業者名が挙がったかどうかだけである。AIが検索を行っていたのか、行っていなかったのかは、本調査のデータからは言えない。「調べてはいるが名前を出さないだけ」という説明も、「そもそも調べていない」という説明も、どちらもこの調査では確かめられていない。
出さない理由もわかっていない。モデルの応答方針によるものか、学習の結果か、質問の形そのものによるものかを切り分ける設計にはなっていない。
業界差は本稿の範囲外である。別の業界を対象とした別設計の調査では、悩みに近い段階でも業者名が挙がった例がある。ただし試行数も質問型も異なるため、本稿の数値と並べて比較することはしない。業界による違いは、それ自体を主題とする調査で扱う。
nの制約がある。各セルn=3、各ターン27回答である。2026年7月時点の各モデルの挙動であり、モデルの更新によって変わりうる。
因果は検証していない。企業側が何かを実施してから再計測した設計ではないため、「こうすれば前倒しで出る」とは言えない。
調査概要
表2 本稿で用いた調査
調査 | 実施日 | 設計 | 単位 | 各セルn |
会話継続実験 | 2026-07-29 | 3系列×3AI×各3回=27会話 | 108ターン | 3 |
距離操作実験(対照群) | 2026-07-29 | 同一質問を独立実行 | 108回答 | 3 |
使用AIはChatGPT・Claude・Gemini。
判定基準の版と対象範囲:本稿が扱うのは、回答本文に業者名が挙がったかどうかの1点のみである。AIが企業について何を語ったかを分類する5記述型の判定基準(v2.1/v2.2)は、本稿では用いていない。業者名の判定は回答本文から行っており、引用元URLの取得方式には依存しない。
クライアント関与の開示:本稿の相談3系列(新人定着・理念浸透・デザイン経営)は、筆者が支援する無形サービスのBtoB企業の顧客像をもとに設計している。したがって、その会社に関わりの深いテーマでの測定である。なお、本稿の主張(業者名が挙がる時点の観測)は特定企業の登場回数に依存しない。
本稿では個別の企業に言及していない。数えたのは業者名が挙がった回答の数であり、どの企業が挙がったかは扱っていない。件数は実測値である。

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マーケティング・ファシリテーター
株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。
まずは、現状を整理するところから。
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