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AI検索石村浩延

生成AIは「顧客の代理人」になった|LLMO/GEO以前に知っておくべきBtoBマーケティングの構造変化

生成AIは新しい広告面ではなく、買い手の側に立つ代理人である。実測では、相談が「業者を教えてほしい」という形になるまで27回答すべてで業者名が出ず、条件を1つ足すだけで挙がる会社の顔ぶれが入れ替わった。

生成AIは、新しい広告面でも新しい検索エンジンでもない。買い手の側に立って、課題を手段に翻訳し、候補を絞り、買い手の条件に合わせて情報を差し出す代理人である。実測すると、この代理人は買い手の相談が「業者を教えてほしい」という形になるまで業者名を1つも出さず、買い手が条件を1つ足すだけで挙げる会社の顔ぶれを入れ替えた。売り手が向き合う相手は、買い手そのものから、買い手の代理人へ移りつつある。

買い手の情報収集は20年かけて売り手の外へ出た。生成AIが変えたのはその先である

検索エンジン、比較サイト、第三者メディア、口コミ。買い手が判断材料を集める場所は、この20年で売り手が管理できない領域へ広がり続けた。それでも構造は一貫していた。材料は外にあるが、判断は買い手の頭の中で行われる。だから売り手の仕事は、材料を目立つ場所に置くことだった。広告枠を買い、検索順位を取り、掲載先を増やす。対象はいずれも「面」であり、資金か技術で影響力を買うことができた。

生成AIは判断材料の置き場ではなく、判断そのものを引き受けた

生成AIで起きているのは、面が1つ増えたことではない。買い手は「調べる」代わりに「相談する」ようになった。相談は、検索クエリに翻訳される前の言葉のままで成立する。「離職が増えていて困っている」と書けば、AIが課題を手段に翻訳し、候補を絞り、比較の観点まで用意する。

つまり、これまで買い手の頭の中で行われていた絞り込みの一部が、企業の外部にあるシステムの中へ移った。売り手から見れば、働きかけの対象が「面」から「他者の判断過程」に変わったということである。

「チャネル」と呼ぶと露出の話になり、「代理人」と呼ぶと材料の話になる

AI検索を新しいチャネルと捉えると、問いは「どうすればそこに露出できるか」になる。しかし代理人は広告を見ない。代理人が参照するのは、依頼人である買い手の仕事を前に進める材料――事実、条件、判断基準――だけである。

捉え方を変えると問いも変わる。「どう露出するか」ではなく、「代理人に何を語られているか」になる。前者は買える。後者は買えない。この違いが、以降の実測結果の意味を決める。

枠が開くのは手段が決まったときではなく、買い手が業者を尋ねたときだった

買い手の相談を4段階に分け、3AI(ChatGPT・Claude・Gemini)で実行した。経営課題の悩み、手段が未定の課題、手段は決まった状態での頼み方の相談、そして業者を教えてほしいという調達の依頼である。会話を積み上げた場合と、同じ質問を単発で実行した対照群の両方で測った。

図1 業者名が挙がった回答数(各ターン27回答)

会話継続実験・距離操作実験(2026年7月29日)。3系列×3AI×各3回。ターン1〜3は会話継続・対照群とも0件、ターン4は両条件とも26件。ターン4のAI別内訳はChatGPT 9/9、Claude 9/9、Gemini 8/9として記録されているが、集計表にAI別の系列が1つしかなく、どちらの条件の内訳かは特定できない。

前半3段階では、27回答すべてで業者名が挙がらなかった。会話をどれだけ積み上げても、単発で聞いても、結果は同じである。注意すべきは3段階目で、ここでは買い手はすでに手段を決めており、頼み方を相談している。それでも業者名は0件だった。枠が開いたのは、相談が「業者を教えてほしい」という調達の形に変わったターン4である。

つまり、枠を開くのは手段の確定ではなく、買い手が業者選定の依頼を出したことである。代理人の振る舞いとしては筋が通っている。依頼人が業者を探してくれと言うまで会社名を並べるのは、代理人の仕事ではない。逆に言えば、調達より手前の段階で露出を狙う施策は、悩み段階に限らず、この構造の外にある。

買い手が条件を1つ足すと、代理人が挙げる会社は入れ替わった

別の実験では、相談文のうち条件を表す語だけを差し替え、他は固定した。無条件の統制群と、実績・費用・地域・体制・手法の5条件である。結果、挙がる会社の顔ぶれ自体が動いた。

表1 条件語ごとに登場した企業の種類数と、無条件時との重なり

条件

登場企業の種類数

無条件時と共通

当該型のみ

無条件(統制)

9

実績×規模

18

5

13

費用

15

8

7

地域

21

3

18

体制

28

7

21

手法

20

6

14

条件別推薦実験(2026年8月11日)。人材教育・組織開発領域。各セルn=3のため件数表記とし、率には換算しない。企業種類数はAI別の内訳が集計上存在せず、3AI横断の値である。

地域を条件に加えた場合、登場した21社のうち無条件時と共通するのは3社にとどまり、18社は地域条件でのみ現れた。買い手が条件を1つ加えるだけで、代理人が持ち出す候補の名簿がほぼ入れ替わっている。

語られる内容も同様に動く。AIが企業について語る内容は実績・契約条件・手法・体制・特徴のみの5つの型に分けられるが、どの型が語られるかは条件によって配分が変わり、しかもAIごとに揃わない。費用を条件に加えたときの実績の記述は、ChatGPTとGeminiでは0件、Claudeでは8件だった。同じ条件でも、代理人が誰かによって差し出される材料が違う。

育てる相手が代理人の側に移ったので、購買の仕事を支援する側だけが残る

BtoBマーケティングには、売り手が買い手を育てるリードナーチャリングと、買い手の購買の仕事を支援するバイヤーイネーブルメントという2つの考え方がある。長く併存してきたが、代理人の存在はこの並立を崩す。

AIに相談する買い手は、売り手の育成シーケンスの外で自走している。検討の往復が1つの会話に圧縮されれば、途中で働きかける接点そのものが減る。一方で、買い手の判断を進める材料を差し出す仕事は、代理人を経由して届く。育成の余地が縮み、支援の比重が上がる。

実務への示唆|経営に説明すべきは、相手が変わったという一点

第一に、予算の議論を露出量から始めない。買い手の相談が調達の形になるまで枠自体が開いておらず、手段が決まった段階でも業者名は出ていなかった。そこでの露出を増やしても、代理人の推薦には接続しない。

第二に、自社の情報を「買い手の条件に対する答え」の形に持つ。条件は候補と語られる内容の両方を動かす。手法を条件に加えたときの契約条件の記述のように、条件に対応しない型が3AIとも0件になる場合もあった。

第三に、単一のAIの結果で判断しない。同じ条件でもAI間で結果が逆になる以上、1つのAIで測って全体を語ることはできない。

この3点は、いずれも「まず測る」という結論に収束する。代理人が現在どう語っているかを知らないまま打ち手を選ぶのは、相手の主張を聞かずに反論を書くのと同じである。

この調査でわかっていないこと

「代理人」は解釈の枠組みであり、実測されたものではない。測ったのはAIの出力であって、AIが買い手の利益のために動いているという内心を確かめたわけではない。

買い手の行動は測っていない。AIが企業名を挙げたことと、買い手がその企業を選んだことは別である。本稿のデータは前者のみを扱っている。

因果は検証していない。企業側が施策を実施してから再計測した設計ではないため、「こうすれば語られる」とは言えない。

範囲が限られている。条件別推薦実験は人材教育・組織開発領域の1業界、各セルn=3である。会話継続実験と距離操作実験は各ターン27回答で、いずれも2026年7〜8月時点のモデルの挙動である。

印刷EC領域で実施した初期調査については、推薦軸での分類が済んでいないため本稿では数値を用いていない。

調査概要

表2 本稿で用いた調査

調査

実施日

設計

単位

各セルn

条件別推薦実験(人材教育・組織開発)

2026-08-11

条件語6種×3AI×各3回=54試行(+パイロット6)

555ブロック

3

会話継続実験

2026-07-29

3系列×3AI×各3回=27会話

108ターン

3

距離操作実験(対照群)

2026-07-29

同一質問を独立実行

108回答

3

条件別推薦実験のブロック数が、本実験54試行のみに由来するか、パイロット6試行を含むかは集計上特定できない。

判定基準の版と対象範囲:本稿で触れた5記述型の判定は判定基準v2.1で行っており、当時の型名は「価格」である。v2.2で「契約条件」に改称されたため本稿では改称後の名称を用いるが、実際に判定されたデータは金額を中心とするものである。条件別推薦実験の集計母数555ブロックは、生データ558行から判定除外3件を控除した値である。

クライアント関与の開示:本稿の会話継続実験・距離操作実験の相談3系列(新人定着・理念浸透・デザイン経営)は、筆者が支援する無形サービスのBtoB企業の顧客像をもとに設計している。したがって、その会社に関わりの深いテーマでの測定である。なお、本稿の主張(業者名が挙がる時点の観測)は特定企業の登場回数に依存しない。条件別推薦実験は、対象企業を事前指定しない一般設計であり、クライアント事業との紐づきはない。

調査対象企業はすべて匿名とし、相対的な表記を用いた。件数・企業数は実測値である。

石村浩延

Written by

石村浩延

マーケティング・ファシリテーター

株式会社トランジットデザイン代表。 マーケティング伴走、採用・組織のストーリー設計、コンテンツ企画・制作を通じて、企業や地域、組織の見えにくい価値を言語化し、伝わるかたちへ整えることを仕事にしている。事業や組織の背景にある文脈を読み解き、営業・採用・発信などの接点をつなぎながら、実行につながる構造をつくることを得意としている。

まずは、現状を整理するところから。

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